ロゴスの息吹
- kotoumishirabe

- 2021年9月13日
- 読了時間: 15分
更新日:2024年1月30日
小説の面白さの一つは、作者の想像力によって、どんな作中人物でも創造できてしまうことにあります。現実の世界にいようが、いまいが、そんなことは関係ありません。そもそも三次元の物質界、肉体界だけがリアリティを有しているのではありません。
たとえ物質の波動から成る肉体をもたなくても、ある意味それ以上パワフルな言葉の真の力(ロゴス)が吹きこまれるや、作中人物に強力な霊力が宿り、それがまた読む人の精神に作用し、振動をあたえて、ある種の波動をもったイマジネーションの力や感情を呼び起こし、物質界の現実社会に影響をおよぼしてくるということにもなります。
別にそうした結果を期待しなくても、作者の意図するしないにかかわらず、そういうことも可能にするのが、小説であり、物語の世界だと思っています。
だれもが潜在的にこの力をもちながら、個人的な目的のためにしか使っていないことが多く、もっと高級なというと語弊がありますが、地球全体や人類全体に貢献できるほどの高い目的のために使えるものは、残念ながら非活性の状態にあることが多いため、現在のような地球になっているともいえます。
それでは、わたし自身がそうした力をいったいどこから獲得しているのかというと、それは日々の祈りや瞑想をつうじてプールしてきた部分が大きいと思います。一方、なにをつうじてこれらの力を知り、理解してきたかというと、神智学をはじめとする聖者、光明を得、悟った人々の教えをつうじてです。人類がそれぞれに放つ一種の生きものとしての想念がうごめく界層をつねに意識して生きてきました。
人々の幸せに反する想念が跳梁跋扈する今の地球で、唯一希望がもてるのは、エレメンタル(この場合、正確には思考―欲望型エレメンタル)と呼ぶ、理想主義的な思考や感情や欲望に吹きこまれた生命すなわち光のエネルギーが、それらの影響力を無化し、光明化してゆく働きだけです。
だからもし人生に意義があるとすれば、それはこの地上の物質次元でなにをおこなうか、ということよりも、この世界に映し出されてくる元の世界のほうをできるだけ透明化し、きれいにしてゆくことにもっぱら力点を置くという仕事をおこなうことによってしか考えられないのですね。
どんな書物を読むよりも、最終的に重要なことは、日々の出来事とともに毎瞬湧いてくる自分自身の思考や感情を各人が観察し、見つめ、意識の光をあて、つまびらかにしてゆくことなのではないかと考えます。少なくともわたしはそこに喜びを感じる人間なのだと思います。
そして、この過程をとおして、新たな気づきがあり、自分の想いの癖、過去生から持ち越してきた信じこみのパターン、それにともなう感情のうち消えずに蓄積されてきた未浄化のエネルギーなどを明らかにし、宇宙根源から来る光に還してゆくために祈ってゆく行為があります。それもまた一つの道であり、生き方であり、選択です。
わざわざそんな苦しい道は選びたくないという人も、たくさんいるはずです。いや、そういう人が圧倒的多数であるかもしれません。
それでも、たぶん生まれる前からここでやると誓ってきたであろうわたしは、他にどんなことをやっても、他に何を得ようが、心はいっこうに満たされず、もう人生でやることといったら、このことをおいて他にはないということをやっている人物を作り出したかったようですし、実際に描いてしまいました。
以下、『しじまの彼方から』上巻より
澪をつうじてメッセージをもらうようになってそろそろ一年になろうとしていた。ある日のこと、突然スピリットから、わたしたちによるサポートはもはや必要ないでしょう、というメッセージが白樹のもとにくだった。
「どうしてなんでしょうか?」動揺を隠せぬ様子で、彼はすぐさま質問を投げ返していた。
メッセージから恩恵を受ける一方で、時につらい経験もしてきた彼ではあったが、それでもこうしたサポートがありがたいものであることに変わりはなかった。
― 私たちの役目はあなたが本道にもどるための案内役にすぎません。
明瞭な発音に澄んだ声。いつもどおりだった。はきはきとした理知的な口調で伝えられた答えにはいささかもわかりにくいところはなかったし、クールでシャープな印象をあたえる声と口調が温かみを欠くということもなかった。
― ともすれば、私たちの言葉がかえってあなたを落ちこませ、あなた自身を自己否定に追いやることさえあるということもわかりました。
「それはそうですね」彼は自分の声のトーンが明らかに落ちたのを意識しながら、短い言葉で応じた。
― あなたはみずからの宇宙とつながり、直観とつながり、叡智とつながり、そして進んでゆくべきです。それはずっと前から伝えています。そうでしたよね?
「そうでしたね」と、答えるほかなかった。
― もうあなたには十分に覚悟はできているはずです。
「覚悟とおっしゃいますと?」一瞬たじろいだように彼は訊ねた。
― 自分が発した想念が現実を創るということを、あなたはもう十分に理解しているはずです。
「もちろん、わかっています。いやというほど体験させられましたから」
― あなたが最近、手帳に書いていた言葉がありましたね。「愛の行為は人に安らぎと平安をあたえる」。私たちが澪さんを導管として、メッセージをお伝えする必要があるときというのは、たいていあなたの内部神性の輝きがおおわれてしまっているときです。わかりますか?
その言葉で彼の意識は一瞬、輝きをました。そして、いまの質問に機械的に応答することなく、内的な観察をつうじて考えるために、しばし自己に沈潜することにした。
自分の習慣的な思考や感情パターンが色眼鏡となって、あるがままに物事が受けとめられず、そのために愛からの行為ができなくなることがあるのはたしかだった。そのようなことが起きるたび、すかさずメッセージがはいり、無意識領域の闇に光があてられて気づきが起こり、いままで気づいていなかった部分を自分の一部と認めて統合してきた。自己に内在する力を発揮し、みずからの魂の自由を縛ってきた誤謬や幻想の正体を見破ることでアーリマンの呪縛を解き自由になってゆく。そのための地道な取り組みをみずから望んでしてきたのではなかったか?
彼は澪とともに血のにじむような一歩一歩を歩んできたことを思い返していた。
― 必要なことはあなたにすべてお伝えしました。この先はあなた自身がみずからの気づきをつうじて得た指針にしたがって実践してゆくのみです。よろしいですか?
(抜粋はここまで)
いわば巣立ちといいますか。いつかはこういう時がやってくるものです。けれども、だいたいにおいて、生き方の上で指導を仰ぐということもあまりないままに、地球上で、わたしたちは、自由意志を行使して今日まで好き勝手なことをしてきたわけです。
お師匠について芸道一筋に修業の道を地道に歩むとか、あるいは修養を積み、ひたすら修行にいそしむ人生を送るとか。人の一生は本当に様々です。誰の指図も受けないという人まで。
あたえられた思考の力をどう使うか。感情も取り扱いを誤ると、時には身を滅ぼしかねません。いや、一つの星を壊滅に追いやらないともかぎらない。しかし、それらを活かすのが自我であり、自己意識です。人類の一人一人には例外なく陰の助力者がいて、暗示的にも明示的にもヒントをあたえ、時にはインスピレーションや虫の知らせで教え導いてもしてくれてきたんですが、科学や技術の発達で人間がなかなか傲慢になってしまい、自然界のかそけき声を聞かないのと同様に、そういう存在たちにも耳を貸さなくなってきた結果が今の状況なのだともいえます。
この小説では、つい忘れかけていた異界や見えない存在との仕切り板がはずれ、日常的に関わり、浸透しあう世界を描いています。小暗い森に分け入ってゆくように物語に入ってゆくと、どうにもならない閉塞的な状況下で、わたしたちのまだ眠っている能力や可能性、未知の領域にたいする感覚を思い出してゆくことでしょう。
以下、『しじまの彼方から』上巻より
きのう些細な事柄がきっかけとなり、澪と口論になり、スピリットが介入せざるをえない場面があった。ありのままの相手を受けいれる課題なら、以前にも取り組んだテーマのはずである。妨げになっているものの正体が常に自分の無意識の欲望エレメンタルだということくらいは心得ているつもりだった。
「無条件の愛とは何でしょう。ありのままの相手を受け入れるというのもその一つではありませんか。相手がこうならば愛せるけれど、そうでないなら愛せない、というのでは、愛の片鱗のようなものが混じっていても、愛そのものではありません」というメッセージにたいし、彼は「ですから、わたしは大失格ですよ」と、つい自己否定的になってしまったのだった。
―いいですか。それをエンティティやアーリマンは狙っているんです。まんまと罠にかかったと、向こうはよろこんでいますよ。
「いやしかし、世の中でもこんなにアーリマンに取り憑かれる者はいないんではないですか。本当にわたしとアーリマンは友だちなんですね? ずーっと、わたしたちはエンティティだとか、アーリマンなどと称される者につきまとわれていますけど、それだけわたしは悪人なんですね?」
またしても自虐の想いが彼をつかまえた。
― 悪人と言っているんではないです。ここは細かく分けて見てゆく必要があります。ひとつ、無自覚に放ったネガティブな想念の粗い波動に向こうが感応してくる側面があります。世の中は無意識に発せられる思考や感情の波動にひき寄せられてくるアーリマンに取り憑かれた者で満ちています。でなければ、なぜこんなにいじめやハラスメントから、殺人やテロ、戦争まで、さらには自然破壊や環境汚染が蔓延しているんでしょう。
「それはわかります。しかし、自覚的に地球の平和のために働こうとしているわたしたちがこうなっているというのはどういうことなんですか」
― そこです。あちらは目覚めようとしている人間、もしくはその人の自然なありかたや振舞いが他の人々のハートを開かせ、その結果、本人が洗脳から目を覚ます手助けをすることになる人間を虎視眈々と狙っています。いまからお話することはよく覚えていてください。
「はい」彼は心強い味方を得たような気持ちとなって聴く準備をととのえた。
― 地球の進化を遅らせ、人類の意識を眠らせたままでいる計画が成功するかどうかは、星の子の目覚めを阻止し、幽界、地獄界にひきずりおろせるかどうかにかかっています。星の子を目覚めさせてしまうと、関門が突破されるように全人類にかけていた魔術の魔解きがおこなわれてしまい、そうなると地球が一挙に次元上昇してしまうからです。いいですか。今回のあちらの狙いは目覚めようとしている彼女の目覚めを阻止することです。そのために彼女のハートチャクラや第三の眼に攻撃をしかけようと、あなたを使っているのですよ。そのことへの自覚があなたにはありますか。
と言われても、正直見当がつきかねるところがあった。悪魔側による外部からの攻撃と見なすと、自分のいたらない点が免責されるようで怖かった。
「じつはわたしは彼女が泣くことに関しては相当のトラウマがあるようなんです。また憑依が起こるかもしれないと、言いようもない不安と恐怖が襲ってくるんです」
白樹は、そもそも事の発端において、互いの言葉がぶつかり感情のすれ違いが生じたときに相手がみせた涙でさらに自分が不機嫌になったことを思い返して言った。
― だから、なんだというんです? あなたが呼び寄せたエンティティを彼女が受けて立っているのですよ。
「百パーセントですか?」反抗的な口調で切り返した。
― そうです。
「じゃあ、これ以上迷惑かけるのは、やめたいと思います。わたしは失格です」
あらかじめどう答えられるのか予想してなかったはずはないのだが、「そうです」と、あっさり返されて墓穴を掘ったわけだ、と思った。
― そんなこと言って、いったい何になります。
つい投げやりになり、自己否定したくもなる気持ちを誰かにわかってほしかった。何事も百パーセントなんてありえない。車同士の交通事故だって、片方だけが悪くてもう片方には何も非はないかというと双方に非のあることが多い。たとえ数パーセントであろうとも。そんなことはわかっていながら、ガイドのスピリットは相手のことをとやかく指摘しなさんな、自分の内にこそ目を向けなさいと言ってくる。自分が全状況を創造していると悟ることで真の自由に到達できるのだ、と言いたいのだろう。しかし、それは今の自分にはあまりにもキビしい。不当と思われることへの怒りや不満が湧いて来ようと、そうした欲望エレメンタルに耳を貸さず、主導権を明け渡すことなく、あくまでも自己の内部神性に立脚した高次の思考エレメンタルを途切らすことなく、欲望エレメンタルを制覇してゆけるだけの強靭さというものを鍛え上げてゆこうとする姿勢それこそが真の自分を愛し、他の存在を生かす道なのだ、と後になれば考えられるものを、その瞬間においては、つい反発してしまうのを如何ともし難かった。
「無害なほうがいいと思います。わたしのような人間は強力な光でも悪の方に転用してしまうんですから。なにもしないほうが、ましですよね」
― それは間違いです。あなたのような人は本当に命を賭けて瞑想し、祈るべきなんです。それが責任です、あなたの。そういうふうに言うのは逃避です。これ以上、まだ逃げつづけるんですか。またこの人生で。どこへ逃げようと、逃げきれるものではありません。あなたの成長の途上で避けることのできない課題です。
「まだ逃げつづけるんですか。またこの人生で」と、たったいま言われた片言隻句から、彼は自分の過去生に思いを馳せてみた。それに関して澪のように鮮明な記憶を持っているというのではない。けれども、何かしら修行や功徳によりプールされてきたろう、エーテリックな素材をどう使うのかは、少なくとも今生最大の課題だということに気がついている自分がいるのも確かだった。彼女から、白ちゃんの持ってるパワーは現実化の力がすごいから、本当に放つ想念や言葉に気をつけてよ、とよく警告されるのも、そのためだった。物質優位の価値観の社会でエレメンタルの影響力に気づいていない人があまりに多いからといって、自分までもがそこに意識を注がなくなってしまっていたとしたら、まずいなとは常々感じることでもあった。
さっきの自分の言葉には嘘があったと、彼は思った。自分の理想とあまりにもかけはなれた状態が、この世界にある、という認識が、せめて生きているあいだ進んで祈ることに彼を向かわせていた。それをいちばんよく知っているのは彼自身であり、まったくおなじ願いをもつ澪にほかならなかった。彼はよく彼女にこんなことを話したものだった。
「この世の中のすべての人がお互いなんの心の壁もなく、打てば響く鐘のように共鳴しあえたらどんなにいいだろう。ぼくがいちばんしあわせを感じるのは、日光を浴びているときと、人と心をかよわせられる瞬間なんだ。ほかのどんな、これが欲しい、あれになりたいより、そういう理想を、一生かけて取り組むに値するやりがいあることと思えたんだよ」
けれども、人はつい自分の都合のいいように物事を解釈しがちなものだ。客観的な事実とか真実なんてものは二の次三の次にされてしまう。心地よいものはウェルカムだし、ちょっとでも不快に感じれば、遠ざけたり、時には怒りの感情も露わにする。いつも理性や理想を愛する思考よりも、わがままな欲望に彩られたエレメンタルのほうを強大化させてしまう。結果、世界は自分のために回っていると錯覚している王様が心の中心の座を占め、君臨することになってしまう。そういう背景で生じてきた頑迷さとか、子供っぽさというもの。それらをきれいにお掃除してやり、汚れたエンジンオイルを新しいものと交換し、さらにエレメントで鉄屑を洗浄するみたいに感情を純化することがどんなに大切なことか。
白樹は澪とともに同じ理想目標に向かって歩んで行かれることに感謝した。
同時に澪が導管となり伝えてくれるメッセージを助けにして自分の心を支配せんとするしつこいエレメンタルを追い出し、非活性化することができるのなら、少々の苦労はかまわない。むしろ己のエゴイズムにとって不都合なことに耐えてゆこうと覚悟を決めていたのだ。
だからこそ、疑問や異論があれば、遠慮なくぶつけてきたのだろう。鋭い切り返しや突っこんだ指摘が矢のように飛んでくることもあれば、真剣な対話が暗礁に乗りあげ、論戦ともバトルともつかぬ激しいやりとりにもなった。ジリジリと追いつめられて窒息しそうになることもあれば、忌憚のない指摘にへこむこともあった。
あちらの言っていることが澪の肩をもっているとしか思えないことがよくあった。納得がゆかぬとなれば、「フェアじゃないと思いますが」と、抗議した。だが、この種の訴えはつねに却下された。
― 公平に取り扱ってもらいたいとあなたは言います。しかしそれは何のためなのか。考えたことはありますか。自分の発言の背後に隠れた目的と意図。そこに果たしたい想いがあり、それもエゴイズムに群がり寄り蝟集してくる欲望エレメンタルの衝動に突き動かされたものだとしたらどうでしょう。人のエゴイズムと結託したエレメンタルは巧妙です。もっともらしい理屈の衣をまとい、正当化し合理化します。そうやって欺かれてしまうのです。公平。平等。民主的。これらのどこがおかしい。何か問題でもあるのか。でも、その主張が無意識領域を占拠した人工エレメンタル、欲望主導のエレメンタルに操られ、ハイジャックされてしまったがゆえに知らずに陥っているあなたの認識のバイアスこそが問題なのではないですか。高次元世界の直観と縦につながった思考が主人になるべきところを、利己的感情と欲望の目的を果たそうとして思考が使役されるとき、人は転倒妄想の世界に迷いこむことになります。かならず誰かと対立し、乱を巻き起こし調和に行き着きません。
「なぜ自分だけが」という抗議。これも温存しておきたい自己中心的な思考癖の典型的事例にすぎません。
「なんでこんなにいじめてくるんだろう? 当初はあちらの口調も穏やかだったじゃない。『いかがですか?』とかって、必ず理解の程度を確かめてきたしね。敬意も払われていたよ。あるときからそれが、白樹さん、澪さんと名前を呼ぶことがなくなって、容赦なくなってきたんだよ」
白樹は自分でも子どもっぽい訴えになっていると思った。
「それは白ちゃんが抵抗するからでしょ。スピリットがいつも言っているように、岩盤の部分に光を通すんだから、当然じゃないかしら」
「そういうことか……」さすがに白樹も認めざるをえなかった。ずっと言われてきていることだし、彼自身、自覚もしている点だった。
浄化が進めば進むほど、最後の悪あがきをするエゴイズムのより強固な岩盤に突き当たる。これを掘削し壊すプロセスがどれほど骨の折れる、痛みをともなうものであろうと、やらなくてはならない。
それは彼個人の問題にとどまるものではなく、人類全体に関係することだと理解していればこそ、堪えることもできた。




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